「害獣」による「獣害」の実態|意外と身近な鳥獣被害をご存じか

害獣と呼ばれるイノシシいきものばなし
生で見る猪はすごい怖いらしいです。
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意外と知られていない獣害の真実をご存じか

動物が人間に被害を及ぼす

「熊が人を襲った」
「イノシシが畑を荒らした」
「イタチに鶏を食べられた」

これら動物が人間に対して何らかの被害を及ぼす事を害獣と呼びます。

人間のテリトリー内で動物が活動すれば、大小問わず何らかの影響を及ぼしますので、
潜在的には家畜を除くすべての動物が害獣になりえるといえるかもしれません。

【害獣】
人間の活動に害をもたらす動物一般(けもの)のこと。
※鳥類の場合には「害鳥」。※虫の場合には「害虫」。
【獣害】
獣による人間への被害のこと。鳥と獣による被害を包括して「鳥獣被害」とも呼ぶ。

鳥獣が人に及ぼす「4つの被害」

農業被害:農作物に対しての被害

鳥獣害を管轄する農林水産省によると平成30年度の農作物被害額は約158億円。

6年連続で減少してはいるようですが、まだまだ大きなインパクトのある金額です。

せっかく作った農作物を荒らされてしまっては農家側の意欲も無くなってしまいます。

目に見えない所でも獣害は良くない影響を与えているのです。

物的被害:家屋や施設、設備に対しての被害

イメージとしてネズミが家に侵入し、ケーブルなどをかじってショートさせるなどの被害を指します。
また、糞尿による悪臭の被害も含まれます。

多くの人にとっては最も身近に感じられる被害といえますね。

生き物というくくりで言うとゴキブリなどの「衛生害虫」の方がもっと身近かもしれませんね。

人的被害:人間の身体に対しての被害

鳥獣が人を直接的に死傷させる場合と、ウイルスや菌の媒介者となることで
間接的に被害をもたらす場合の2つが含まれます。

猪が人に突進して傷を負わせたり、熊が人を襲い師匠させるケースはニュースに大きく取り上げられていますね。

生態被害:生態系(食物連鎖)に対しての被害

特定外来種として指定されている動物などが固有の生態系を破壊してしまう場合や
草食動物が増えすぎた結果として荒地になってしまうなどの被害です。

自然環境の破壊されることは巡り巡って人の生活にも大きな影響がでることが危惧されますので、
鳥獣被害の一つとして考えられています。

獣害を引き起こす害獣の具体例

大型の肉食獣が人に危害を加えることは想像に難くないですが、
現状どの動物がどのような被害を引き起こしているのでしょうか。

猪(いのしし)

牙の生えたイノシシ

イノシシは人に重大な被害をもたらす能力をもった生き物。

猪(いのしし)の特徴

成獣は体長100~170cm、体重80~180kgにもなる大型の獣。

現在家畜用に改良されている豚の原種として国内には2種存在しており、
低山帯から平地の森林や雑木林で生活しています。

日本では北海道以南に生息しており、ニホンイノシシとリュウキュウイノシシ、
それに加えて八重山諸島のブループの系3亜種が存在しているようです(諸説あり)。

草食に偏った雑食であり(植物質9:動物質1)、主に植物の根や地下茎(芋など)を掘り起こしたり、
ドングリなどの実を採餌して食べるという食性をもっています。

また、鋭い嗅覚と超音波も聞き取る聴力を有し高い身体能力を誇るのが特徴。
時速約45kmのスピードで走ることができ(至近距離だと人間が反応することが出来ない速さ)、
中国の研究機関の実験では70kgの成獣が121cmのバーを
助走無しに飛び越えたことが確認されていなど跳躍力にも優れています。

見た目の通り発達した鼻で倒木を動かしたり柵を破壊することができるなど力が強く、
雄で70kg以上(雌は50~60kg以上)の物体を押しのけることが可能。

意外にも泳ぎが得意で、瀬戸内海を泳いで渡るイノシシの姿もたびたび目撃されています。

猪(いのしし)による被害

猪による被害の歴史がとても古く、農耕が始まった当時からすでに食害は問題だったようです。

現在ではドングリなどの食物が少なくなる季節に人里に現れる個体が確認されており、
農林業被害と合わせて一般家庭の庭やゴミをあさる住環境被害や人への噛みつきや死亡事故など
人的被害に繋がるケースもあり大きくニュースで取り上げられるほど問題視されています。
特に過疎地や高齢化率の高い集落に置いて人里に出没するイノシシの数は増え続けているようです。

また、イノシシは人獣共通感染症でもある日本脳炎ウイルスに高い確率でしているという報告や
E形肝炎ウイルスを保持している可能性があるなど、野生のイノシシと人の接点が増えることで
感染症が伝播する恐れも指摘されています。

被害の多い地域では行政での対策も積極的になされており、
例としてはジビエ(狩猟で得た野生鳥獣の食肉を指すフランス語)として活用する取り組みが有名です。

熊(くま)

寝そべっている熊

寝そべっている熊

熊(くま)の特徴

日本では本州と四国に生息する「ツキノワグマ」と北海道に生息する「ヒグマ」の2種類が生息しています。

ツキノワグマ
体重70~120kg、体長120~145cm
胸部の三日月状の斑紋が特徴。
熊(クマ)としては小型~中型の種類に分類される。
ヒグマ
体重150~250kg、体長200~230cm
日本では最大の陸上生物で軽自動車くらい大きいのが特徴。

森林や山岳地帯に生息しており意外かもしれませんが植物食傾向の強い雑食性であり、
主に植物の若葉や新芽、ドングリなどの木の実、山葡萄など果実を食します。

積極的に動物を襲って狩りをする生き物ではありませんが、
採餌する種類は多く、鮭などの魚や少量と言われていますが虫、もちろん肉も食します。
※動物を狩るよりも簡単に栄養を得られる手段があればそちらを選ぶくらいのイメージ。

日本においては人間を除いて食物連鎖の頂点に位置している動物であり、
行動範囲が広く縄張りを持たず自由に移動しながら食物を得る特徴があります。
行動範囲内で十分な食物が得られない場合には更に行動範囲を動き回る傾向があるようです。

熊(くま)による被害

自由に動き回って食べ物を採餌する性質から餌不足の際には人里にも姿を見せるケースが多く、
大量発生の際には強い警戒がなされます。

雑食性のため、米・麦などの穀物からリンゴ・桃・梨などの果実、ニンジンなどの野菜
養殖場の魚に至るまで多くの農林水産業で被害が発生しますし、
牛や馬などを捕食することがあり畜産にも甚大な被害を与えます。

また人間がレジャーや山菜取りなどで山に入った際に
突然熊に襲われるという人身被害がたびたび報告されています。

熊による獣害(熊害)での死亡事故例
  • 苫前三毛別事件:大正4年12月
  • 沼田幌新事件:大正12年8月
  • 札幌丘珠事件:明治11年1月
  • 福岡大学遭難事件:昭和45年7月
  • 風不死岳事件:昭和51年6月
  • 山形戸沢村人喰い熊事件:昭和63年5月
  • 秋田十和利山事件:平成28年5月

植物食寄りとはいえ雑食性ですのでお腹がすいていて食べられると思えば襲ってきますし、
不意な遭遇で排除行動にでることもあります。

熊ほどの体格になれば向こうは威嚇のつもりでも人にとっては致命的な一撃になってしますので、
遭遇しない為に予防策を講じることが大切です。

山羊(ヤギ)

 

草を食む山羊

益獣でも害獣でもある山羊

山羊(ヤギ)の特徴

山岳地帯や岩場を好む種が多いなど厳しい環境下でもよく耐えることができ、
繁殖力も強い特徴から世界中で飼育化が進んでいるのが山羊です。

世界的に見れば家畜が犬についで古いと呼ばれており、
遊牧民にとってはウチ、ウマ、ラクダ、羊と並んでポピュラーな家畜の一つとされています。
山羊(ヤギ)はしょう体重は増え続ける為大きさは種や育成環境によっても様々といえるでしょう。

日本においては戦時中に家畜化が進んだ時期もありましたが、
戦後にGHQの指導で牛乳が普及したために今も家畜としては珍しい部類に入ります。

近年では山羊の能力を改めて見直し、里山と人間の住環境を隔てる緩衝地帯に山羊を放牧することで
除草に役立てて害獣の進出を抑える働きに期待した試みなども始まっています。

山羊(ヤギ)による被害

家畜としては人間に大きなメリットを提供してくれる益獣としての側面が強い山羊ですが、
野生の山羊(ノヤギ)は害獣として嫌われており、
実は『世界の侵略的外来種ワースト100』の1種にも認定されています。

山羊の獣害として最も深刻なのが、離島などの固有植物などを食い尽くしてしまう生態系被害です。

日本の南西諸島や小笠原諸島などの島々でもノヤギが増えており、植生の破壊が深刻な問題となっています。

世界の侵略的外来種ワースト100

  • 山羊(ヤギ/Capra hircus)
    大洋に散在する離島に放されて野生化。あらゆる草木を食べ尽くす貪欲さで生態系を破壊する。
    日本では小笠原諸島や尖閣諸島の魚釣島がその典型。
    出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

鼠(ねずみ)

様子を伺うネズミ

人類史で耕作が始まって以来ずっと敵なのがネズミ

鼠(ねずみ)の特徴

人類の歴史上害獣でありつづけているのが鼠(ねずみ)です。
収穫した作物を狙って食害するだけでなく、伝染病の媒介者として
ペストをヨーロッパ中に広めた実績など多くの悪名を轟かせています。

現代日本においてもドブネズミ・クマネズミは人間社会に溶け込みながらその数を増やしているといえます。

駆除に関しては多くの民間事業者がサービスを提供していますが、
侵入された後に被害がでてからの対策がメインとなっている状況のようです。

また、駆除する為の薬物に耐性をもった「スーパーラット」なる存在も現れているなど
対策がより困難になっている点もあり、今後も鼠(ネズミ)と人との戦いは終わりそうにありません。

鼠(ねずみ)の被害

食べ物を食害するだけでなく、住居に侵入しケーブルをかじるなどの物的被害も引き起こします。
また、糞や尿をまき散らして住居の衛生環境を悪化させるなど衛生面でも多くの被害をもたらす要因です。
さらに、寝たきりの老人などに対しては噛みつくなど身体的被害も引き起こすことが報告されています。

下水道などの不衛生な場所に巣くっていることもあり多くの病原菌の身に宿している為
噛まれるだけでなく接触するだけでも多くのリスクが伴います。
直接・間接を問わず数多くの被害をもたらす存在です。

鼬(いたち)

きょとんとするイタチ

高い攻撃性を持つ肉食獣とは思えない可愛さ

鼬(いたち)の特徴

ネズミ駆除を目的として導入が進んだこともきっかけに、日本全域に生息しているイタチ。
日本では古来から「かまいたち」など妖怪としても扱われるポピュラーな生き物です。

※可愛らしいペットとして有名な「フェレット」もイタチの仲間。

イタチは多くの種で2kg以下と小柄ながら、好戦的な肉食獣(肉食寄りの雑食)でもあります。
小型の哺乳類はもちろん、自分の体よりも大きな鶏やウサギなども単独で捕食が可能です。

鼬(いたち)の被害

ネズミを駆除してくれる点では益獣ですが、鶏などの家畜をや果実類を食害する害獣でもあります。
家屋に浸入した際には騒音被害はもちろん糞尿の悪臭など生活環境を害する存在です。

生態被害も甚大で希少な小動物を捕食してしまうなどの生態系への悪影響が報告されています。

他、西日本を中心に国内に移入したチョウセンイタチが
日本に固有のイタチ種を圧迫しているなど種族間での問題も健在化しています。

※環境庁では日本固有種は準絶滅危惧種(レッドリスト上のNT)に指定されています。

アライグマ

手を洗うアライグマ

日本の環境に適応し野生化

アライグマの特徴

日本では「ラスカル」と聞けば思い出す動物でもあるアライグマは、
原産国である北米から愛玩目的で一時期盛んに輸入されていた中型哺乳類です。

愛玩動物として優れているかは疑問で、攻撃的な性格を持つ気性の荒い生きものであり
遺棄されるケースも多かったようです。

現在では野生化した個体が全国に生息領域を拡大して繁殖をつづけています。

アライグマの被害

アライグマはもともと日本に生息していない外来種のため直接的に天敵となる捕食者が存在せず、
希少種を含めて多くの在来種が捕食されてしまういう生態系への被害報告されています。
その為、アライグマは特定外来生物に指定されています。

また学習能力の高さから農作物への被害も甚大で、農業・漁業(養殖業)などで大きな被害をもたらしています。

大型害獣から中型害獣へ

餌を探すイノシシ

人里と動物の生活領域が接してしまっている問題

害獣とされる動物をその被害についてまとめましたが、
まだまだ氷山の一角。様々な害獣が様々な獣害被害をもたらしています。

これまでは熊や鹿などをはじめとする大型の害獣がもたらす被害が注目されてがちでした。
農耕地を守る柵もその為に設置されたものと言えますし、捕獲する為の罠も発展してきました。

しかし現在では中型獣類における獣害被害が影響度を増していまる現状があります。
獣害被害全体の被害額は減少しているにも関わらず、
中型獣類における被害額は増加していることからも明らかです。

参考資料:野生鳥獣被害防止マニュアル
ーアライグマ、ハクビシン、タヌキ、アナグマ(中型獣類編)ー
※農林水産省 農村振興局監修

大型の獣に比べて繁殖力が高い生きものも多い中型獣種は
これまでの対策の網をする抜けて現在進行形の脅威でありつつあります。

農作物は多くの動物(や虫)から狙われる存在。
目に見える原因に対処したからと言って、それで被害が収まらないのが獣害の特徴です。

野生の獣と人間の接点が増えることで動物が持つ病原菌や寄生虫などに感染し、
人間の生命に重篤な危険をもたらすリスクが高くなるという結果にもなってしまいます。

獣害というテーマ

経済活動の観点、動物愛護・自然保護の観点、道徳的観点など、
獣害を取り巻く問題は複雑でこれが正解という判断が難しいテーマでもあります。

しかしながら現在進行形で起きている被害に対して迅速な対応が必要なことは明らかです。
これまでもそして現在でも多くの自治体で「獣害」が問題とされているのは
検討課題の複雑さから対策が追い付いていない事の証左ではないでしょうか。

経済の中心といえる土地ほど縁遠くなってしまう問題だとは思いますが、
対岸の火事ではなく日本の経済に深刻な被害をもたらしている問題だと多くの人が知り、
関心をもつことで良い方向に変わっていくのではないかと感じる問題でもあります。

人と動物のより良い関係を考えていくうえでも、「獣害」は大切なテーマだと思うのです。

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