小学校の頃に近くに桑畑を持っている人がいて、授業の一環でカイコ(蚕)を育てるというものがありました。
卵を孵して、幼虫を蛹にし、繭をから絹をとる。
繭を取らないものは成虫にして交尾をさせて卵を産ませるまでの一連の流れを体験するという内容です。
幼虫は白くて綺麗だし成虫はモフモフとしていてとても愛らしいという見た目に加えて、虫が嫌いという人もカイコだけは飼えるのではないか思うほどおとなしく全くの無害。
菓子箱を碁盤目状に区切った小さな飼育箱の中で一生を終えるカイコたちを見ながら、子ども心に「なぜ逃げないんだろう?」と不思議に思ったものでした。
今であれば理由がわかります。
カイコ(蚕)は人が世話をしないと生きることが出来ない完全家畜だからなんだということを。
カイコ(蚕)が完全家畜と呼ばれる由来
カイコ(蚕)は絹を生産するのに必要不可欠な生き物で、養蚕業は日本の近代化を支えたともいえる産業でした。
その為日本社会にとってカイコは馴染み深く大切にされてきたという歴史があります。
カイコの生き物としての最大の特徴は「野生に存在しない」というかできないこと。
野生への回帰能力を全く持っていないという部分が完全に家畜化しているといわれる由縁ですね。
人に飼われ続けることで生物として新しい種へを変化したとしか思えないとても興味深い生態を持っているんです。
※その証拠に元々の種である「クワコ」と呼ばれる生物は野生で立派に生きている。
- 木に登れない(登ろうとしても落ちる)
- 白色の体色は目立つため容易に捕食される。
- 翅をもつが飛べない
- 口(口吻)はあるが餌を食べない。
- 成虫の寿命は約10日
とても弱々しさ感じさせるので、野生に解き放つのはかわいそうと思ってしまいますね。
カイコ(蚕)は幅広く活躍中
カイコ(蚕)の代名詞である絹(シルク)の採取はもちろんのですが、人によって都合の良い生態を活かして多方面で活躍しています。
モデル生物
学術研究におけるモデル生物として利用されています。
例えば「九州大学農学研究院」では100年以上にわたってカイコの研究が行われており、その蓄積と研鑽が新型コロナウイルスに対するワクチンや治療薬研究で成果を上げているそうです。
※出典:新型コロナウイルスのワクチンや治療薬研究で2つの大きな成果/九州大学HP
食用として
長野県などで佃煮として食用にされていますし、世界的にも食用昆虫としてあたりまえに食されていたりします。
また育成が良いで栄養価が高い為、宇宙ステーションでも食料としての研究もされているとのこと。
※出典:Space Business Insights 2020 第4回 宇宙食時代の到来‐宇宙グルメの勃興
餌用として
家畜やペットへの餌としても活用されています。
虫を食べるペットを飼育している方にとっては「シルクワーム」の方が通りが良いかもしれません。
幼虫をそのまま生餌として用いたり、加工して畜産動物や魚の餌に用いたりされています。
完全家畜としてのカイコ(蚕)
人が世話をしなければ生物として生きてはいけないカイコ(蚕)。
野生に回帰する能力を持たないことをかわいそうだと論じるのであれば切なさを否めませんが、数千年に渡って人類にメリットを提供し続けることで生き長らえてきたことを思えば、とても大胆な生存戦略を実現している種ともいえます。
なぜなら、どうして人が完全家畜化に成功しているのかの詳細については謎なままだからです。
種の保存に必要な一切を人間たちに任せることで絶滅を免れているという事実はとても面白いですよね。
食糧の未来が予測されている現代において昆虫食が再び注目されているのと合わせて、今後さらにカイコ(蚕)は存在感を増していくのかもしれません。
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